へ・シャンユ
「Who Are Interested in Us」

2019年11月18日(月)- 12月21日(土)
開廊時間:12:00 - 18:00
※日・月・祝日休廊 (ただし11/18(月)のみオープン)

中国の次世代を代表するコンセプチュアル・アーティストとして、北京およびベルリンを拠点に、国際的な活躍を続ける何翔宇(へ・ シャンユ)。本年度第58回ベネチア・ビエンナーレにおいては、中国パヴィリオンに出展される四人の作家の一人に選出されるな ど、国際舞台での存在感を近年ますます強めています。127トンのコカ・コーラを煮詰めた残留物の山や、イタリア製のレザーを用 いた中国軍の戦車など、批評的視座を基軸に現代の構造をあぶりだす大規模プロジェクトを行って来た何(へ)は、近年、個人的な感覚領域へと目を向け、身体を経由した知覚描写を中心とする作品群を展開。自身の口腔の感覚を視覚表現に翻訳した "Palate Project" (2012 -)や、人々の感覚を刺激する黄色の効果を果実のレモンとの文化的関連性の中で探った "Lemon Project" (2014 -)など、その内容は多岐に渡ります。これら内的感覚の翻訳を周辺分野の研究とともに模索する近年の作家の実践は、触覚や味覚 といった、現代社会における視覚の優位性に対する、いわば周縁部に追いやられた身体的感覚の回復の試みのようにも見えます。

「Who are interested in us」と題された本展では、このような何(へ)の実践を推し進め、「内と外」といった二元的対立および矛盾についての考察を中心とした作品群を展示します。我々に関心を持つのは一体誰でしょうか。本展のタイトルは多分に内と外、およびその構図を喚起するものです。見捨てられていた素材、あるいは検討されなかった考えといった、自身のスタジオ内で見つか る廃棄材料の収集から始まったという本展への取り組みもまた、疎外されていたものを現実に取り戻そうとする作家の関心を物語 っているかのようです。 一揃いの靴下が三つ、左右別々に整列しています。

《R&L》(2014)を彷彿とさせる本作は、左右対称の最たるものである靴下のペアが右と左に分かれ、対立を端的に表しているようです。床に置かれたガラスとそのエッジをなぞるようなドローイングは、作家自身によって展示室内で行われ、絵画と彫刻ふたつの性質を帯びています。エッジから僅かに外れたようなドローイングは、事物を隔てる境界の曖昧さを仄めかす作家の象徴的な仕草のようにも見えます。

一方、壁面から突き出た壁掛けのようなオブジェは、ヴァイオリンの柄の部分を銅でキャスティングしたものを二本重ね、鑑賞者の目を二重に欺く効果を示しています。上述の "Lemon Project" に使用され、役目を終えたヴァイオリンの柄を取り込んだ本作は、木製と見紛う金属の複製が、原型の模倣を超越する抽象性を獲得し、我々の眼前に現れる事物の多層的な見方を示唆しているようです。

脚の一本がブロッコリーに置き換わった椅子は、彼らしいユーモアに溢れた、観賞者の想像力を刺激する作品です。何(へ)は言います。「椅子の脚の欠落は、人間としての我々自身の欠陥を表しています。しかし我々は、自身の欠落をいつも想像力で補って来ました。」対象物の喚起するイメージは、鑑賞者の想像力との対話の中で、二つを隔てる線を軽妙に乗り越えながら、その完全性を取り戻していきます。

内と外、結果とプロセス、オブジェとイメージ、自己と他者。 身体感覚の視覚化、あるいは視覚とその他身体感覚の表現領域における相互補完を模索してきた作家の実践は、分断を深める社会の中で、対立構造、概念および素材への考察を通じ、柔らかな可能性に満ちたイメージの連なりへと展開しています。