名和晃平
「FORCE」

2015年3月7日(土)- 4月25日(土)
期間:2015年3月7日(土) - 4月18日(土) *4月25日(土)まで延長
開廊日時:12:00-18:00 *日・月 休廊
展示作品:インスタレーション、平面作品など

プリズムシート、発泡ポリウレタン、ガラスビーズなど、名和晃平はこれまでも素材特性を最大限に引き出し、研ぎ澄ませた表層のテクスチャと希薄化するオブジェの実体を対比することで、デジタル社会における存在のリアリティーを問うてきました。最先端の3Dテクノロジーを駆使した制作プロセスや素材への化学的なアプローチは、ものの表層における視覚的な情報量を増幅し、鑑賞者それぞれの知覚体験によって成り立つ現代彫刻の新たな可能性を示しています。リアルとバーチャルの境界へ迫るこうした探求は、現代における多様な物質性とその知覚について、私たちの意識を視触覚的に刷新する試みであると言えるのではないでしょうか。

「Force」と題された本展は、質的に計算された液体と重力の関係性によって展開されます。インスタレーション作品《Force》(2015年)では、黒いオイルの筋が雨のように天地垂直に流れ、床面に溜まって黒い池を形成します。動粘度を調整されたシリコーンオイルは、液状化した彫刻のように固体と液体の特性を曖昧にしながら、一定方向に高速で流れ続けます。綿密な構成意図にしたがって成り立つ空間彫刻は、時間・空間・物質のはざまに鑑賞者の視点が置かれ、アクチュアルな 瞬間 の連続のなかに私たちがいる現実を直感させられます。名和はこれまでも湧き上がる気泡(“LIQUID” 2003年〜)や際限なく生成し続ける泡沫(《Foam》2013年)など、原初的な現象を現代の化学素材で再生してきました。ホワイトキューブに流れ続ける線状の黒いオイルはこうした試みを継承しながら、熱可塑性の素材で造形する"GLUE" (2000年〜)、液体のもつ特性と重力で描いた"Direction"や"Moment"に繋がる新たな彫刻のコンセプトを指し示しています。

垂直に張ったキャンバスの上端から顔料を滴らせてできる平面作品"Direction"は、2011年から続く作品シリーズ。バイナリーコードのようなモノクロームの反復は、顔料がひとつの方向に向かう運動の痕跡であり、強いコントラストをもつ自律的な階調を刻んでいます。 "Moment"(2014年〜)では、精密にチューニングした顔料が入ったタンクの振り子装置によって、ノズルから出たインクの軌跡が円心運動の錯綜を描きます。ある点からある点へ顔料が移動するときに曲線や渦線がうまれ、タンク内の空気圧、ノズルの太さなど物理的な条件によって多様に変化します。作品制作は徹底した素材のコントロールと運動計算によって統制されている一方で、瞬間的に画布を動かし介入を加えることで局所的なカオスと変調を生んでいます。重力の影響で円心の運動(力のモーメント)が弱まると、線は点に近づき支点の中心へと収縮します。このような作用は、空間に垂直に立とうとする私たちの身体が、常に感じ続けている力(Force)でもあるのです。

名和晃平(1975年、大阪府生まれ)は、京都在住。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート留学を経て、2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程修了。アジアン・カルチュラル・カウンシルの支援によりニューヨーク、ダイムラー・クライスラーによりベルリンに滞在(2005〜2006年)。2009年、クリエイティブ・プラットフォームSANDWICH (京都)を創設し、以後ディレクターを務める。主な個展に、2009年「L_B_S」(銀座メゾンエルメス)、2011年「シンセシス」(東京都現代美術館)、2013年「SCULPTURE GARDEN」(霧島アートの森)など。また、第6回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(ブリスベン、2009年)、第14回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラディッシュ(ダッカ、2010年:最優秀賞受賞)、あいちトリエンナーレ(名古屋、2013年)など多数の国際展に参加。京都造形芸術大学准教授。