アニッシュ・カプーア / 遠藤利克 / 大庭大介 / ヴァジコ・チャッキアーニ
アーティストの直感的な判断や、感情の痕跡を限りなく排除するミニマリズムの表現は、次世代に少なからぬ反動をもたらしました。立方体や球体など無機的な形状を継承しつつも、その中によみがえらせる彫刻の豊潤な力—身体的な触覚性を喚起する素材、色彩のアピール、原始から伝わるかのような熱量や深遠な物語—は、後続の流れを特徴づけてきたと言えるでしょう。本展では、そうした影響を感じさせる4人のアーティストを取り上げています。
シンプルなフォルムに深い精神性を呼び起こすアニッシュ・カプーア(1954年、ムンバイ生まれ)の作品は、ミニマリズム後の彫刻世界に再び神話をもたらす試みであり、存在と不在、窪みと膨らみ、隠蔽と露出など、対極的な意味を巧みに用い、胎内にまで遡る人間存在の根源について考察を重ねてきました。代表作に数えられる巨大な皿形の作品《Untitled》(2018年)は、内側が深い真紅色にコーティングされ、周囲の光や音を飲み込む瞑想の対象のように静かに佇んでいます。この色面に対峙するのが、ガーゼで覆われた肉塊を思わせるシリコーン製の彫刻です。赤黒いマテリアルの量感や光沢に、脂肪のような白色が混ざり合い、陰影に富んだ絵画に見られる複雑な色彩を表しています。人体の内側に目を向けたこの生々しい解剖学は白いヴェールに包み隠され、生命に関する哲学的思考と官能性を同時に写し込むカプーアの手法を象徴しています。
また、美術における「物語性の復権」を唱える遠藤利克 (1950年生まれ)は、「もの派」やミニマリズムの動向をもっとも批判的に継承した一人といえるでしょう。木材を円環や円筒、柩(ひつぎ)のような直方体に彫塑して燃やすという行為によって、共同体の儀式やその根源にある衝動を喚起してきました。水や火などのプリミティヴな要素が、人間の情動の中心に現れる空洞を象徴しますが、遠藤にとって空洞とは、何もない空虚な状況ではなく、すべてを吸い込む引力と魔力のあるところ、また無限の幻想の根源を意味し、日常の境界線を越えた吸引と放出のちからを孕む場として捉えられています。
本展では、さらに後続の世代となる二人のアーティストが参加しています。ミニマリストの工業的な形態を退けたアルテ・ポーヴェラを受け継ぎながら、ファウンドオブジェクトに最小限の手を加えることで、出身国ジョージアの社会的な出来事やそのトラウマを静かに語るヴァジコ・チャッキアーニ (1985年トビリシ生まれ)。大庭大介 (1981年生まれ)は、絵画における物語性に一定の距離を置きながら特定の制作方法に従い、矩形のキャンバスを観賞者との対話の場ととらえてきました。本展では、このように多国籍な文化背景と世代の位相から投げかけられる視点が、色彩とフォルムが織りなす4つの無声の物語となり、個々に深遠な作品世界を醸成しています。