何 翔宇
「Save the Date」

2016年10月28日(金)- 12月3日(土)

127トンのコカ・コーラを煮詰めた残留物の山や、展示会場を埋め尽す流木の椅子など、何翔宇は特定の歴史や社会的条件を示唆しながら現代の構造をあぶりだす大規模プロジェクトを行ってきました。近年では個人的な感覚領域へと目を向け、身体を用いた知覚描写を模索する作品群を展開。2014年には上海ビエンナーレ、昨年はリヨン・ビエンナーレに参加するなど国際的な活躍を続けています。

「Save the Date」と題された本展では、感覚の伝達に焦点をあてた何の近作・新作を発表いたします。中心となるのは、足の裏にインクをぬり、一つの領域からまた次の領域へと飛び跳ねる動きの軌跡をとどめた《My Feet》(2016年)です。不安、恐れ、緊張や焦りなど、日々異なる感情の起伏がつま先にまで伝達し、作家の心理状態がそのまま素描となって表れています。重力を蹴り返す跳躍の軽さとは対象的に、立体作品《Lead》では、鉄や銀よりも比重の大きい鉛のキャスティングを用い、鑑賞者の視覚をあざむく重量感を表しています。

また、鉛筆で枠をひいた壁面いっぱいにオリーブオイルを染み込ませた《オリーブオイル》(2016年)では、オイルは日に日に壁に浸透し、展示空間にほのかな匂いを広げながら、その領域を拡張していきます。《Time》では、壁面に油性マーカーでその制作が行われた時間を記した文字列が記され、感覚の変化を時間の流れに対置しています。

こうした視覚・臭覚への考察は新作「レモン」シリーズにも引き継がれています。鮮烈な黄色を背景にしたこれらのドローイング・ペインティングでは、レモンの紡錘形がランダムに並び、白い展示空間に色彩が強い味覚のような刺激を生み出します。何は本作のリサーチにあたって、鑑賞者に軽やかな昂奮をひきおこす黄色の効果を探りました。それは、網膜の細胞がうける本能的な反応から台湾の「ひまわり学生運動」まで、人々を誘引し伝播する黄色の効果を幅広く示唆しています。

身体的感覚に着眼するきっかけとなったのは、長期間、外国語の環境に置かれたアメリカに一時移住をした経験にあった、と作家は語ります。自分の感情や感覚を言語によって記述することの難しさやもどかしさから、個人的な領域に閉じ込められた感情や感覚を、イメージの世界に置き換える「翻訳」の試みがはじまりました。多文化社会のなかで人々が交流する困難とその手がかりを求める本展において、感覚についての作家の探求が、辛辣なユーモアのなかで多様な表現へと展開しています。

本展は、カイカイキキギャラリー(港区元麻布)にて開催する何翔宇 個展「save the date」との同時開催となります。詳細はこちら


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何翔宇(ヘ・シャンユ)

1986年生まれ、中国遼寧省出身。瀋陽師範大学にて絵画を学ぶ。主な個展に、2015年「New Directions - He Xiangyu」(UCCA/ユーレンス現代美術 センター);2013年「信仰錯誤」(スカイザバスハウス、東京);2012年「コーラ・プロジェクト」、4A現代アジア美術センター、シドニー; 2011年「マラーの死」、シュロス・バルモラル・クンストラーハウス、バート・エムス(ドイツ)など。2015年第13回リヨン・ビエンナーレ、2014年上海ビエンナーレ、釜山ビエンナーレほか国際展にも参加多数。現在、ベルリン在住。

《ふたつのレモン》 2016年、キャンバスに鉛筆・アクリル絵具、20 x 25 cm
《ふたつのレモン》 2016年、キャンバスに鉛筆・アクリル絵具、20 x 25 cm