宮島達男展「FRAGILE」

2006年3月3日(金)- 4月8日(土)
期間: 2006年3月3日(金)−4月8日(土)
開廊日時: 12:00-19:00 *会期中 日・月・祝日休廊

宮島達男は発光ダイオードのデジタル数字を様々なコンポジションに組み合わせた作品を通して現代社会の様相や生と死、人間の営みを表現し、約20年に渡り国際的に注目を集めてきたアーティストです。数字という誰にでもたやすく理解できる共通言語を通して「それは変化し続ける」、「それはあらゆるものと関係を結ぶ」、「それは永遠に続く」という3つのコンセプトを作品のメッセージとして伝えてきました。すでに80年代に生み出されたこの3つのコンセプトは、複雑なデジタルネットワークや端末による情報の共有が一般化した現代社会の中でさらなる現実感を伴って作品の中に浮かび上がります。


宮島達男の作品制作の中でここ数年注目を集めているのが、国内外での大規模なパブリックアートのプロジェクトです。1997年のスイス・ジュネーブ大学でのパブリックアート・プロジェクト以降、この分野での活動のステージが広がり、岡山・直島での家プロジェクト作品「Sea of Time '98」、六本木ヒルズ・テレビ朝日社屋での「Counter Void」、大阪・和泉市での「Time Garden」、韓国・ソウルの Leeum Samsung Museum of Art のエントランスの作品「Transcend Section」など、スケールの大きなサイトスペシフィックな作品が相次いで発表されてきました。また、数字による表現という原点にはこだわりつつ、発光ダイオードにとどまらず、ネオンや液晶、あるいはパフォーマンス表現も含めたかたちで、アーティストや美術関係者の間のみの予定調和的な作品表現ではなく、広く社会に問いかけるメッセージをもった開かれた表現として、作品を鑑賞する人々それぞれの中にこそ本来のアートが存在するという考え方「ART IN YOU」を提唱しながら、円熟期に入ったアーティストにふさわしい力強い作品発表を続けてきました。


一方、長崎の原爆投下時に被爆した柿の木の種子をもとに各国で植樹をするという「柿の木プロジェクト」や、2005年秋に自らが客員教授を務める京都造形大学にて世界からアーティストを招いて討論した「アーティスト・サミット」など作品制作の場とは異なった分野での人々との交流や対話を経験することにより、次第に作品制作に対する姿勢も変化してきたように感じられます。


今回新たに発表する作品「Counter Fragile」では、ここ数年続いた規模の大きな作品や、あるいは硬質な素材を用いた作品表現から一転してとらえどころのないフラジャイルな(こわれやすい、もろい)フォームが出現します。この作品のために新たに開発されたごく小さなデジタル数字による形態の構成は一定の法則をもたず、まるで空間にそのまま浮かんでいるかのように微妙なバランスのもとに形づくられております。それぞれの数字はほのかな赤い光を放ちながら全体として眺めればまるで宇宙の中の星雲のようにオーガニックで柔らかな存在感をたたえています。宮島達男が六本木ヒルズの「Counter Void」で都市の中に圧倒的な死を暗喩した表現とは反対に、ここでは闇の中にささやかではあるけれど確かに存在する命が表現されているようです。そしてそれはここ数年宮島達男が特に大切にしてきた人と人との関わり、政治や経済のパワーゲームとは無縁の柔らかな関係性を示唆しているようにも映ります。明確な哲学を持ちながら常に変化し続ける宮島達男の新たな作品世界にぜひご期待ください。

"Counter Fragile" 2005
"Counter Fragile" 2005