「Spiegelung」2013、180 x 250 cm、oil on canvas
「Spiegelung」2013、180 x 250 cm、oil on canvas

小笠原美環「beyond silence」

2013年4月11日(木)- 5月18日(土)
期間:2013年4月11日(木)− 5月18日(土)
開廊日時:12:00-18:00 *日・月・祝日休廊
会場:SCAI THE BATHHOUSE
展示作品:絵画作品20点
協力:コンラート・アデナウアー財団

静謐な室内空間、光と闇のコントラストが印象的な風景、窓辺で外を眺める人物の姿。

何気ない日常の光景を見つめている間に、いつのまにか深い精神世界に迷い込んだような錯角を起こす絵画。小笠原美環の絵画に描かれる深い闇、あるいは光に満ちた彼方の場所は、個人の内的世界つながっていく入り口にしか過ぎず、その奥には深淵な思索の空間が広がっています。

真っ白い何もない空間、窓、鏡、カーテンなどは小笠原の作品によく登場するモチーフですが、そこには外の世界と隔絶された内なる精神世界が象徴されています。その澄んだ世界の中で、心は時にさまよい、揺れ動き、研ぎすまされながらうつろってゆきます。

そしてふとした瞬間、その内的世界は外の世界と共振し、そこに揺らぎが生まれます。

絵画は自らの内的世界への扉でありながら同時に宇宙を映す鏡でもあるのです。

このように小笠原は常に、世界が直面する「大きな物語」と個人の「内なる物語」を対峙させることで、目には捉えられない形而上学的な世界を描いてきました。

東京では3回目となる今回の個展では、2011年以降の近作および新作を展示いたします。

この2年の間に、小笠原の絵画を新しい展開に導いたのは2011年3月の東日本大震災と、その後の原子力発電所の問題に対する社会の大きな動きでした。世界を巻き込んでいるこの「大きな物語」が、小笠原が描く「内なる物語」に未だかつてなかったほどの大きな震動を与えたのです。

日本というシステムに若くして訣別し、ドイツの地を制作の場所に選んだ小笠原ですが、故郷の国で起きた大災害とその後の原発の問題について大きなダメージを受け、考え抜いたのは言うまでもありません。その震動は子供時代の彼女の記憶にさえ揺さぶりをかけ、作品には初期の彼女の作品に見られたように再び、純粋な少女の姿や未知の闇におびえる子供の姿が多く登場するようになりました。一方、室内の光景など静的な世界を描いた絵画では、より研ぎすまされた透明感のある表現を追求して行きました。

日本から遠く離れたハンブルグの地で、小笠原は世界の「大きな物語」であるこの大惨事と、自分自身の心の行方に真摯に向かい合い、葛藤の中で徐々に新しい表現世界を獲得していったのです。

今回の個展では震災以降から2年の間の作品を展示することで作家の心の動きの変化を感じ取るだけでなく、鑑賞者自身が社会と内的世界を同時に見る鏡を覗き込むような、暗示的な展覧会になります。

小笠原美環の新しい絵画世界にぜひご期待ください。