ドナ・オン 『出会い』 2008年/ ヴィデオ(本展出品予定作品)
ドナ・オン 『出会い』 2008年/ ヴィデオ(本展出品予定作品)

「The BAR vol.2 ドナ・オンとティアゴ・ホシャ・ピッタ」展

2008年6月14日(土) - 6月28日(土)
期間: 2008年6月14日(土)- 6月28日(土)
開廊日時: 12:00 - 19:00
*最終日は17:00まで
*会期中の日曜日以外はオープン
会場: SCAI X SCAI(六本木)

六本木のSCAI X SCAIでは、NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]とバッカーズ・ファンデーションに協力し、6月14日(土)~6月28日(土)の間、「ドナ・オンとティアゴ・ホシャ・ピッタ」展を開催いたします。2週間の短い会期となりますが、ぜひお越しください。


[展覧会概要]

本展は、アーティスト・イン・レジデンスプログラムによってドナ・オン(シンガポール、1978年生まれ)とティアゴ・ホシャ・ピッタ(ブラジル、1980年生まれ)が東京に3ヶ月滞在し、その経験をもとに制作した作品を発表する展覧会です。


アーティスト・イン・レジデンスという体験は、アーティストにとって、複雑で相反するものではないでしょうか。初めて東京に滞在するアーティストは、すぐさま「根なし草」状態に直面し、そのなかで自分なりの居場所を見つけ、様々な関係性を構築していかなければなりません。言葉の壁を含む様々な状況に、アーティストはどのように対応していくのでしょう? そして、彼らにとって見知らぬ地を馴染みのある地に変えるものとは何なのでしょうか?


アーティスト・イン・レジデンスがアーティストにもたらす困難な状況は、カリブ系フランス人の作家、エドゥアール・グリッサンのいう『<関係>の詩学』における状況とそれほど違いがありません。カリブ系フランス人文化のポスト植民地主義的な体験を書いたこの本は、『<関係>の詩学』とは、固定した絶対的なルーツがないまま、多様な状況を経験することと語っています。グリッサンの言うアイデンティティとは、関係性のなかでこそ発展していくものであり、孤立のなかで養われるものではありません。


アーティストが初めての地で人々と出会い、知らない場所を訪れ、物事を解釈し、発見を重ねる過程では、関係性の構築が果てしなく繰り広げられます。これにより生じる度重なるズレこそが、旅するアーティストの創造性を形成していくのではないでしょうか。ドナ・オンとティアゴ・ホシャ・ピッタが東京滞在中に制作した新作からは、こうした逸脱の片鱗を見ることができるでしょう。


バッカーズ・ファンデーションは、オーナー型経営者が集まり社会貢献事業を行う任意団体で、2007年以来、現代アートの支援を行っています。本プログラムでは、2名の若手アーティストと1名のキュレーターの、1~3ヶ月間の東京滞在のサポートを行っています。NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]は、バッカーズ・ファンデーションと共に、日本に滞在するアーティストとキュレーターの招聘、および本展のキュレーションを行っています。


[クレジット]
主催:NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
共催:バッカーズ・ファンデーション
協力:SCAI THE BATHHOUSE、(株)ヨックモック


[お問い合わせ]
NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]
渋谷区猿楽町30-3ツインビル代官山A502
Tel: 03-5489-7277
Email:office@a-i-t.net
Website:http://a-i-t.net/

ドナ・オン DonnaOng
1978年シンガポール生まれ、在住
オンは、滞在当初から東京の持つ強烈さやダイナミズムに魅了されました。彼女の探究心は、やがて日本とアメリカの友好のシンボルでもあった「フレンドシップ・ドール」へとたどりつきました。「フレンドシップ・ドール」は元々、1927年にアメリカから日本の小さな町や学校などに向けて贈られた品です。その返礼として、日本もまた85体の「答礼人形」をアメリカに贈呈しています。

本展に向けて制作された映像作品『出会い』には、小さな部屋に見立てた空間に西洋と日本の人形が2体登場します。この作品に音はなく、時の経過はそこに照らされる光のみで表現されています。その中にたたずむ人形たちは、子供のおもちゃとしての無邪気さも残しながら、魂が宿るものとしての不気味さを醸し出しています。サミュエル・べケットの『ゴドーを待ちながら』を彷彿させながら、オンの人形たちはただ静粛の中でその存在を保っています。また、このビデオ作品とともに、黒やグレーを基調とした小さな家具やオブジェが並ぶ、人形の家のようなインスタレーション『秘めたる静かなる場所で』が展示されます。


ティアゴ・ホシャ・ピッタ Thiago Rocha Pitta
1980年ブラジル生まれ、在住
ホシャ・ピッタは、初めて経験する東京の雑踏に圧倒されるなかで、余計な情報や装飾のない建物の壁に着目するようになりました。ホシャ・ピッタには、こうした壁の形状が、巨大で空白なキャンバスやスクリーンのように映り、都市に舞散るホコリや粒子を吸い寄せているように見えたのです。ゆっくりとした時の流れや季節の変化を告げるホコリや粒子は、まるで都市から分離してしまったものの一部のようです。ホシャ・ピッタにとって、こうした壁は「忘れ去られた影」であり、その建築は、浸食された山々のように映ります。

ホシャ・ピッタは、そうした壁をモチーフに、涙のようなゆらめきを見せる雲状のドローイング『目(窓)のない壁画のためのスケッチ』を制作しました。時の経過や変化を告げているかのようなこの作品は、本展のためのもう一つの作品である、ガラスに塩の結晶を施したインスタレーション『塩の結晶の雲』や『塩の結晶の雲とその影』との関連も示唆しています。ホシャ・ピッタは、自然界の変化の象徴であると同時に、アーティストのコントロールを不能にする塩の結晶を、度々作品のなかに取り入れています。そうした作品は、風化や堆積、流動などの自然界のプロセスと、建築などの人工的なプロセスの狭間に位置し、原始的でありながらも、新しさや潜在性との相互作用をはかっていると言えるでしょう。